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岡山地方裁判所 昭和48年(ワ)140号 判決

昭和四八年(ワ)第一四〇号事件原告

永井一夫

ほか一名

昭和四八年(ワ)第一九〇号事件原告

国司等

昭和四九年(ワ)第六七六号事件原告

日本電信電話公社

ほか一名

昭和四八年(ワ)第一四〇号事件被告・

杉原文典

昭和四八年(ワ)第一九〇号事件被告・

昭和四九年(ワ)第六七六号事件被告

昭和四八年(ワ)第一九〇号事件被告・

中台正

昭和四九年(ワ)第六七六号事件被告

主文

一  被告杉原文典は、原告永井一夫に対し金二二万一二二〇円、原告永井巌に対し金一八万九三五〇円および右各金員に対する昭和四八年四月八日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告永井巌の被告杉原文典に対するその余の請求を棄却する。

三  被告杉原文典、同中台正は各自原告国司等に対し、金二二七万七二〇二円および内金一〇七万七二〇二円に対する被告杉原文典については昭和四八年五月一九日から、被告中台正については同年同月二日から、内金二〇万円に対する昭和五一年二月一七日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告国司等の被告杉原文典、同中台正に対するその余の請求を棄却する。

五  被告杉原文典、同中台正は各自、原告日本電信電話公社に対し、金二〇一万七七二二円、原告日本電信電話公社共済組合に対し、金三〇七万七八一四円および右各金員に対する被告杉原文典については昭和五〇年一月二四日から、被告中台正については同年同月一六日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

六  訴訟費用中、原告永井一夫、同永井巌と被告杉原文典との間に生じたものは同被告の負担とし、原告国司等と被告杉原文典、同中台正との間に生じたものはこれを一〇分し、その三を同被告らの、その余を同原告の各負担とし、原告日本電信電話公社、同日本電信電話公社共済組合と被告杉原文典、同中台正との間に生じたものは同被告らの負担とする。

七  この判決は、主文第一、第三、第五項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

(昭和四八年(ワ)第一四〇号事件につき)

一  原告ら

1  被告は、原告永井一夫に対し金二二万一二二〇円、原告永井巌に対し金一九万四〇七〇円および右各金員に対する昭和四八年四月八日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告

1  原告らの請求を棄却する。

(昭和四八年(ワ)第一九〇号事件)

一  原告

1  被告らは各自原告に対し、金七六二万七七二六円および内金七〇二万七七二六円に対する被告杉原文典については昭和四八年五月一九日から、同中台正については同年同月二日から、内金六〇万円に対する判決言渡しの日の翌日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする

(昭和四九年(ワ)第六七六号事件)

一  原告ら

1  被告らは各自、原告日本電信電話公社に対し金二〇一万七七二二円、原告日本電信電話公社共済組合に対し金三〇七万七八一四円および右各金員に対する被告杉原文典については昭和五〇年一月二四日から、被告中台正については同年同月一六日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  右1につき仮執行の宣言

二  被告ら

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

(昭和四八年(ワ)第一四〇号事件)

一  原告らの請求の原因

1  事故の概要

(一) 発生日時 昭和四六年一二月二五日午後九時ころ

(二) 発生場所 岡山市高松原古才二五七番地先道路上

(三) 第一加害車両 大型貨物自動車(福山一か一三四七号)(以下中台車という。)

(四) 右運転者 中台正

(五) 第二加害車両 普通乗用自動車(岡五五せ八四九二号)(以下杉原車という。)

(六) 右運転者 被告

(七) 被害車両 普通乗用自動車(岡五五セ一一九九号)(以下永井車という。)

(八) 右運転者 原告永井巌(以下原告巌という。)

2  事故の態様

本件事故現場は、東西に走る幅員四メートル余りの道路と、北から南に向かつて走り右道路に至る幅員三メートル余りの道路とが丁字型に交わる三差路のやや東方道路である。右東西に走る道路を、永井車が西進し、中台車が東進していたところ、南北に走る道路上を北から南に向けて進んでいた杉原車が中台車に接触したため、中台車が対向車線に進入し、折から西進していた永井車に衝突したものである。

3  帰責原因

被告は、杉原車の保有者であり、自己のためにこれを運行の用に供していたものであるから、原告らが蒙つた後記損害のうち人的損害については自動車損害賠償保障法三条により、また被告は、三差路に進入するに際し、道路右方の安全確認を怠り、一時停止の義務に違反して本件事故を惹起させたものであるから、物的損害については民法七〇九条により、これを賠償すべき責任がある。

4  受傷

原告巌は、本件事故により、頸部挫傷、前胸部打僕症の傷害を受け、昭和四七年二月二日まで山下病院に通院して治療を受けた。

5  損害

(一) 物的損害 二二万一二二〇円

原告永井一夫(以下原告一夫という。)は、永井車の所有者であり、本件事故による永井車の修理費二二万一二二〇円の損害を蒙つた。

(二) 治療費 六八五〇円

(三) 病院へのタクシー代 一〇〇〇円

(四) 休業損害 三万五二二〇円

原告巌は、本件事故による受傷のため、当時勤務していた日産プリンス岡山販売株式会社を欠勤するのやむなきに至り、同額の損害を蒙つた。

(五) 代車料 五万一〇〇〇円

原告巌は、職務上などの理由により自動車を必要としていたが、本件事故により、かねて使用していた自動車が破損したので、他から自動車を賃借するのやむなきに至り、その賃料として出捐したものである。

(六) 慰藉料 一〇万円

本件事故の態様、傷害の程度その他諸般の事情を考慮すれば、原告巌が本件事故によつて蒙つた精神的苦痛を慰藉するための慰藉料としては一〇万円が相当である。

6  よつて被告に対し、原告一夫は前記5(一)の損害二二万一二二〇円、原告巌は前記5(二)ないし(六)の損害合計一九万四〇七〇円および右各金員に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四八年四月八日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する被告の答弁

1  請求の原因1の事実は認める。

2  同2、3の各事実は否認する。

3  同4の事実は認める。

4  同5の事実は否認する。

三  被告の抗弁

被告は、杉原車の運行に関し注意を怠らず、第三者である中台正に過失があつたもので、杉原車に構造上の欠陥または機能の障害がなかつたから、被告には本件事故に基づく損害賠償責任はない。

本件事故の発生につき被告に過失がなかつたことを詳述すれば、以下のとおりである。

被告は、本件交差点を左折進行するにあたり、右方国道への見とおしが悪かつたことから、停止線の標示を約一一メートル越えて国道線に接近し、国道に入るその約二・五メートル(直線距離で一・五メートル)の地点で一時停車し、直視およびカーブミラーにより右方国道上の交通状況を注視し、交通の安全を確認したうえ、時速約五キロメートルの低速で左折進行を開始したものである。したがつて、被告は、本件交差点を左折進行するに当り右方国道上に対する安全確認を怠つた過失はなかつたというべきである。

仮に右主張が理由がないとしても、本件事故当時の客観的条件、主観的状況のもとにおいては中台車は極度に無謀な暴走車というべきであり、被告は、右中台車との衝突の危険を予見することが不可能であつたから、この点で過失ありとはいえない。

仮に右主張が理由がないとしても、被告は、本件事故においては、次に述べる「信頼の原則」と称する法理により過失なきものといわざるを得ない。

すなわち、左折進行しようとする被告としては、本件事故当時、特別の事情はなかつたから、右側からくる他の車両が交通法規を守り、自車との衝突を回避するため適切な行動に出ることを信頼して運転すれば足り(あるいは本件事故当時被告が採つた交通方法で左折進行すれば足り)、中台車のように、あえて交通法規に違反し、高速度で交差点を突破しようとする車両のありうることまでも予想して左折を完全に終えるまで右側方に対する安全を確認し、もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務はなかつたものと解するのが相当である。

四  被告の抗弁に対する原告の答弁

被告の抗弁事実は否認する。

(昭和四八年(ワ)第一九〇号事件)

一  原告の請求の原因

1  原告は、次の交通事故により傷害を受けた。

(一) 発生日時 昭和四六年一二月二五日午後九時一〇分ころ

(二) 発生場所 岡山市高松原古才二五七番地先路上

(三) 第一加害車両 普通貨物自動車(福山一か一三四七)(以下中台車という。)

(四) 右運転者 被告中台正(以下被告中台という。)

(五) 第二加害車両 普通乗用自動車(岡五五せ八四九二)(以下杉原車という。)

(六) 右運転者 被告杉原文典(以下被告杉原という。)

(七) 事故の態様 原告が前記路上を普通乗用自動車(岡五ぬ三九五九)(以下原告車という。)で総社方面に向け進行していたところ、被告中台の運転する中台車が反対方向から進行してきたが、事故現場前方の十字路において被告杉原運転の杉原車が急に左折したため中台車に接触し、そのため中台車はセンターラインを越え対向してきた原告車に衝突したものである。

2  受傷の程度

原告は、本件事故により、肝破裂、腰椎横突起骨折(左第一、第二)の傷害を受け、昭和四六年一二月二五日から岡山市所在の岡山済生会総合病院に入院し、昭和四八年二月末に至るまで入院加療を要するのみならず、退院後も少くとも三か月間は通院加療を続けなければならない状態である。また原告は、本件負傷のために右肝葉切除をしたが、それによつて治癒後も軽易労働以外はできない体になつた。

3  帰責事由

被告杉原は、杉原車の保有者であり、本件事故は被告ら双方が前方の安全確認を怠つた過失により惹き起されたものであるから、被告杉原は、原告の受けた人的損害については自動車損害賠償保障法三条により、物的損害については民法七〇九条により、被告中台は、原告の受けた損害を民法七〇九条により、連帯して賠償する責任がある。

4  損害

(一) 物損 一五万六五〇〇円

本件事故により、原告車は破壊され修理不能となつたが、同車の時価は一五万円が相当である。

また本件事故により、原告は、着用していたメガネを破壊されたので、新しいメガネを購入せざるを得なかつた。その代金は六五〇〇円であつた。

本件の物損は以上合計一五万六五〇〇円である。

(二) 入院費 三五万二〇六〇円

昭和四六年一二月二五日から同四八年二月二八日までの原告負担入院費

(三) 付添費 八〇万四〇〇〇円

原告は、重傷であり起床不能であつたために付添看護を要した。原告の妻・愛子は、そのために病院に寝泊りし昼夜つききりで看護しなければならなかつた。その付添の必要は昭和四八年一月末まで続いた。その費用は一泊二〇〇〇円が相当であるところ、入院時から昭和四八年一月末まで四〇二日間の看護を要したものであるから、付添費は合計八〇万四〇〇〇円となる。

(四) 入院雑費 一二万九〇〇〇円

原告の入院中の雑費は一日三〇〇円が相当であるところ、昭和四八年二月末まで四三〇日間入院を要するのであるから、入院雑費は計一二万九〇〇〇円となる。

(五) 副食費 四三万円

原告は重傷であり、特に医師から栄養食をとるようにと指示があつたものであり、その費用は治療費の一種と考えるべきものである。原告は副食費として一日一〇〇〇円を要したものであるから、入院時より昭和四八年二月末まで四三〇日間の費用は合計四三万円となる。

(六) 交通費 一七万九四五〇円

原告の妻・愛子は、原告の付添のため病院に寝泊りしていたが、家庭に両親と二児がおり、家庭の主婦として役目を果たし、かつ原告の付添もせねばならなかつたため、病院と家庭のとんぼ返りを余儀なくされた。その交通は殆んどタクシーに頼らざるを得なかつた。

(七) 逸失利益 八四五万六七一六円

原告は、受傷時岡山電話局に勤務し、月平均七万三〇七六円、年八七万六九一二円の賃金を得ていた。

原告は、本件事故により肝破裂、腰椎横突起骨折の傷害を受け、右肝葉切除を行ない、その結果腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができず、その労働能力喪失率は五六パーセントである。

原告は事故時満三五才の健康な男子であつたから、その稼働可能年数は二八年で、そのホフマン係数は一七・二二一であるから、原告の労働能力喪失による逸失利益は、次の算式のとおり八四五万六七一六円である。

八七六九一二×〇・五六×一七・二二一=八四五六七一六

(なお、原告は、受傷後も一部勤務先から賃金の支給を受けているが、労働能力喪失自体に対する損害として逸失利益を請求しているので、右支給分は控除しない。)

(八) 慰藉料 三〇〇万円

原告は、本件事故により重傷を負い、事故時から昭和四八年二月末に至るまで一年二か月にわたる入院を要し、さらに今後三か月間にわたる通院加療を要するものである。原告は、本件負傷のために右肝葉切除を受け、治療後も軽易な労務以外は就労不能となつており、これは後遺障害の七級に相当するものである。原告は、右後遺症のために復職後も勤務のために通常の人よりはるかに努力を要さねばならず、昇進についてもかなりの不利益を受けることが予想される。

したがつて、原告の慰藉料は三〇〇万円が相当である。

(九) 弁護士費用 六〇万円

原告は、弁護士に対し着手金二〇万円を支払い、報酬として四〇万円を支払う旨約束している。

(一〇) 損害の填補 六四八万円

原告は、以上(一)ないし(九)の損害を受けたが、その損害の填補として自賠責保険金五一八万円、被告中台および同人の雇用主・三共運送有限会社から一一〇万円、被告杉原から二〇万円、合計六四八万円の支払を受けた。

(一一) 以上差引損害合計 七六二万七七二六円

5  よつて原告は被告ら各自に対し、以上損害合計七六二万七七二六円およびこのうち弁護士費用を除く七〇二万七七二六円に対する本件訴状送達の日の翌日である被告杉原については昭和四八年五月一九日から、被告中台については同年同月二日から、弁護士費用六〇万円に対する判決言渡しの日の翌日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する被告杉原の答弁

1  請求の原因1の事実は、(七)を除いて認める。

2  同2の事実は不知。

3  同3の事実のうち、被告杉原に関する部分は否認する。

4  同4の事実のうち、(一〇)は認め、その余はすべて不知。

二  請求の原因に対する被告中台の答弁

1  請求の原因1の事実については、原告主張のような交通事故が発生したことは認める。

2  同2の事実は不知。

3  同3の事実のうち、被告中台の前方不注視により本件事故が発生したとの主張は否認する。

4  同4の事実のうち、(一〇)は認め、その余は不知。

四  被告杉原の抗弁

昭和四八年(ワ)第一四〇号事件における三、被告の抗弁と同じ。

五  被告杉原の抗弁に対する原告の答弁

被告杉原の抗弁事実は否認する。

(昭和四九年(ワ)第六七六号事件)

一  原告らの請求の原因

1  原告日本電信電話公社(以下原告公社という。)の職員で、かつ原告日本電信電話公社共済組合(以下原告共済組合という。)の所属組合員である国司等は、次の交通事故により傷害を受けた。

(一) 発生日時 昭和四六年一二月二五日午後九時一〇分ころ

(二) 発生場所 岡山市高松原古才二五七番地先路上

(三) 第一加害車両 普通貨物自動車(福山一か一三四七)(以下中台車という。)

(四) 右運転者 被告 中台

(五) 第二加害車両 普通乗用自動車(岡五五せ八四九二)(以下杉原車という。)

(六) 右運転者 被告 杉原

(七) 事故の実情 国司等が普通乗用自動車(岡五ぬ三九五九)を運転して前記路上を総社方面に向け進行中、反対方向から進行してきた被告中台の運転する中台車が、本件事故現場前方の十字路において、被告杉原の運転する杉原車と接触し、その結果、国司等運転の車の直前でセンターラインを越えて対向車線に進入し、国司等運転の車に衝突して同人に傷害を与えたものである。

(八) 事故の原因 本件事故は、右のとおり被告ら双方が交差点における安全確認を怠つた過失により惹き起されたものである。

2  国司等の受傷および休業

国司等は、本件事故により肝破裂等の傷害を受け、事故当日である昭和四六年一二月二五日から同四八年二月二八日まで岡山市所在の岡山済生会総合病院で入院加療を受け、退院後も昭和四八年一二月二〇日まで同病院で通院加療を受けた。

また、国司等は、前記入院にともない昭和四六年一二月二五日から勤務先である岡山市電話局の勤務を休み、ようやく昭和四八年九月二七日から勤務に復した、しかし、復職当日から翌四九年一月二六日までは一日当り四時間の勤務、同月二七日から翌二月二六日までは一日当り六時間の勤務であり、同年二月二七日から通常勤務に復した。

3  前記のように国司等が入院・通院加療中および復職後通常勤務に服するまでの間、原告公社は、原告公社の就業規則に基づき、左記のとおり同人に対し給与を支払つた。

(一) 昭和四六年一二月二七日から同四七年六月二六日までの間

国司等は、日本電信電話公社職員就業規則四二条一項三号、原告公社職員局長通達「職員の勤務時間、週休日および休暇について」第五に基づき、六か月間(標記の期間)病気休暇が与えられた。そして、原告公社は、右の規定に基づき、同人に対し、その間一〇割の給与を支払つた。

(二) 昭和四七年六月二七日から同四八年六月二六日までの間

国司等は、前記の病気休暇の期間を経過してもなお傷害が治癒しなかつたので、前記就業規則五二条一項一号の規定に基づき、昭和四七年六月二七日から休職に付された。しかし、原告公社は、日本電信電話公社職員給与規則一五七条二項および一五三条、一五四条の規定により、休職の期間が満一年に達するまでの間(標記の期間)は、給与の八割相当額を同人に支払つた。なお、休職の期間が満一年を越えた昭和四八年六月二七日以降は、国司等は無給の休職となつた。

(三) 昭和四八年九月二七日から同四九年一月二六日までの間

国司等は、昭和四八年九月二七日に復職したが、標記の期間は一日当り四時間の勤務となり、一日当りの勤務時間七時間三〇分との差三時間三〇分については、前記(一)記載の就業規則、通達に基づいて病気休暇が与えられた。そして、原告公社は右規定に基づき、同人に対しその間一〇割の給与を支払つた。

(四) 昭和四九年一月二七日から同年二月二六日までの間

国司等は、標記の期間、一日当り六時間の勤務となり、一日当りの勤務時間七時間三〇分との差一時間三〇分については、前記(一)記載の就業規則、通達に基づいて病気休暇が与えられた。そして、原告公社は、右規定に基づき、同人に対し、その間一〇割の給与を支払つた。

いま、前記期間に、原告公社が国司等に支払つた金額を示すと、別紙(一)のうち「支給額」欄記載のとおりである。このうち、国司等から労務の提供を受けられなかつたにもかかわらず、就業規則により支払を余儀なくされた金額を示すと、別紙(一)のうち「損害額」欄記載のとおりであり、その合計は一八一万七七二二円となる。

4  国司等の本件負傷は被告らが自動車を運転するにあたり交差点における安全確認を怠つた過失による共同不法行為に基づくものであり、それにより、原告公社は国司等に対する雇傭契約に基づく労務提供請求権を侵害され、前記一八一万七七二二円相当の損害を受けたことになる。また、右損害について賠償請求をするため、原告公社は弁護士に依頼して訴訟の提起を余儀なくされた。そのための費用として二〇万円が、被告らの共同不法行為と相当因果関係に立つ損害と考える。

そこで、原告公社は、右損害額の合計二〇一万七七二二円について、被告杉原に対しては同人が杉原車の運行供用者であるので自動車損害賠償保障法三条により、また被告中台に対しては民法七〇九条により、それぞれの支払を求める。

5  原告共済組合は、公共企業体等共済組合法三三条の規定に基づき、国司等が岡山済生会総合病院で受けた療養に要した費用として、別紙(二)記載のとおり合計二八三万五三七八円を支払つた。

また、原告共済組合は、同法四四条、四七条の規定に基づき、国司等に対し、同人が無給の休職となつた昭和四八年六月二七日から同年九月二六日までの間、別紙(三)記載のとおり傷病手当金を支給したが、その合計は二四万二四三六円となる。

6  ところで、原告共済組合が国司等に対し右のような給付を行なわざるを得なくなつたのは、被告らが自動車を運転するに当り交差点における安全確認を怠つた過失による共同不法行為に起因するものである。それ故、原告共済組合は、同法三〇条の規定に基づき、右療養に要した費用と傷病手当金との合計額三〇七万七八一四円の限度で、国司等が被告らに対して有する損害賠償請求権を取得した。

そこで、原告共済組合は、右損害額三〇七万七八一四円について、被告杉原に対しては自動車損害賠償保障法三条により、また被告中台に対しては民法七〇九条により、それぞれの支払を求める。

7  よつて、原告らは被告らに対し、それぞれ前記損害金およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日である被告杉原については昭和五〇年一月二四日から、被告中台については同年同月一六日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する被告杉原の答弁

1  請求の原因1の事実は、(八)の事実を除いて認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実は不知。

4  同4ないし6の事実はいずれも争う。

三  請求の原因に対する被告中台の答弁

1  請求の原因1の事実のうち、(八)は否認し、その余は認める。

2  同2ないし6の事実はいずれも不知。ただし、本件事故の発生につき被告中台に過失があつたとの主張は否認する。

3  本件事故は、狭い道路から広い道路(国道)に進出し、しかも左折せんとして被告杉原の、交差点を左折するにあたつて左右の交通の安全を確認しなかつた過失により、杉原車が直進中の中台車左前部に衝突したため、その衝撃により中台車がセンターラインを右に越え国司等の運転する車に衝突したものであり、国司等運転の車と中台車との衝突はひとえに被告杉原の過失によるものである。

四  被告杉原の抗弁

昭和四八年(ワ)第一四〇号事件における三、被告の抗弁と同じ。

五  被告杉原の抗弁に対する原告らの答弁

被告杉原の抗弁事実は否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  (事故の発生等)

原告一夫、同巌と被告杉原との間では昭和四八年(ワ)第一四〇号事件における原告らの請求の原因1の事実、原告国司と被告杉原との間では昭和四八年(ワ)第一九〇号事件における原告の請求の原因1の事実(ただし(七)を除く。)原告国司と被告中台との間では同事件における原告主張のような交通事故が発生したこと、原告公社、同共済組合と被告杉原、同中台との間では昭和四九年(ワ)第六七六号事件における原告らの請求の原因1の事実(ただし(八)を除く。)は、それぞれ当事者間において争いがない。

二  (事故の態様および被告らの過失の有無)

前記一の争いのない事実に、原告一夫、同巌と被告杉原との間では原本の存在およびその成立に争いがなく、その余の当事者間では弁論の全趣旨により原本の存在およびその成立が認められる甲イ第七号証、被告杉原と原告国司、同公社、同共済組合との間では成立に争いがなく、その余の当事者間では弁論の全趣旨によりその成立が認められる乙イ第一ないし第六号証、同第七号証の一、二、同第八号証、被告杉原と本件各原告との間でその成立に争いのない乙イ第一一、第一二号証、原告国司、被告中台各本人尋問の結果を総合すれば、本件事故現場は、総社市方面から岡山市方面に通ずる幅員約七メートル余りの国道一八〇号線(以下東西路という。)と、やや西北寄りに傾いて北から南に走り東西路に斜交する幅員約六・五メートルの進路(以下南北路という。)とが交わる交差点(南北路が幅員を減少して東西路の南側にも伸びているから十字路というべきである。)のやや東側にあたる東西路上であること、本件交差点には信号機が設置されていたが、当時信号機は作動しておらず、交通整理は行なわれていなかつたこと、東西路は、本件交差点の東側では直線であるが、その西側では多少北方に湾曲しており、見とおしが悪くなつていること、被告中台は、総社市方面から東西路を制限時速五〇キロメートルを約二〇キロメートル超過する時速約七〇キロメートルの高速度で西進し、本件交差点に差しかかつたが、そのさい南北路から南進し本件交差点に左折進入しようとしている被告杉原の運転する杉原車を約二一・五メートル前方に発見し、慌てて急制動をかけるとともに右に転把しようとしたものの対向車が接近してくるのを認めてハンドルを元に戻そうとしたとき、杉原車の右後部に自車左前部を衝突させたこと、その衝撃により、中台車は、東西路の中央線を越えて対向車線上にはみ出したまま進行したため、本件交差点東側の東西路上において、折から対向してきた原告国司の運転する国司車の右前部に自車の左前部を衝突させ、引続いて対向してきた原告巌の運転する永井車の左前部に自車の左前部を衝突させたこと、一方、被告杉原は、南北路を南進してきて本件交差点を左折すべく、停止線を約一一メートル越えて東西路に接近し、同交差点内の東西路東行車線の左側端延長線よりも直線距離で一・五メートル手前の位置で一時停車したうえ、東西路、特に西側方向(右方)の安全を確認したが、東進してくる車両の灯火を認めなかつたので、左に転把しながら徐ろに発進し、それ以上東西路の西側方向(右方)の安全確認をすることなく、時速約一〇キロメートル以上に加速して約一〇・六メートル左折進行したとき、中台車に衝突されたものであること、杉原車が一時停車した位置での東西路西側方向に対する見とおし距離は三六・七〇メートルにすぎないが、杉原車が本件事故当時の進路どおり進行した場合、右停車地点から一メートルずつ前進する毎に右見とおし距離は四〇・九〇メートル、五一・三〇メートル、七一・二〇メートルとわずかずつ長くなり、右停止地点から四メートル進んだ地点での右見とおし距離は八七・九〇メートルにも達すること、本件事故当時は夜間で暗く雨が降つていて、自動車の運転上見とおしが悪く、路面が湿潤しすべりやすい状態であり、東西路は通行車両も多く本件事故現場は交通の幅そうする場所であつたこと、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、被告中台は、本件交差点を直進通過するにあたり、見とおしの悪い道路状況、天候や視界などを考慮し安全な速度に調節して同交差点を直進通過すべき注意義務があつたのに、これを怠つた過失があることは明らかである。

他方、被告杉原も、本件交差点を左折進行するにあたり、東西路は西側方向に対する見とおしが悪いうえ国道で通行車両も多いなど当時の現場の客観的状況を十分認識考慮し、また夜間の国道では交通整理の行なわれていない本件のような交差点なら制限速度に多少違反して直進通過しようとする車両も実情としてありえないではないことを予想して、被告杉原が本件事故直前に一時停車したさいはもちろんのこと、さらに右折準備態勢をとりながら徐々に前進し、東西路西側方向に対する見とおし距離がより長くなつた地点でも同方向に対する安全を十分確認したうえで左折進行すべきであつたのに、これを怠つた過失があるといわざるをえない。

被告杉原は、本件事故の発生につき同被告に過失がなかつた所以をるる論述するけれども、右に述べたとおり、本件においては予見可能性、結果回避の可能性がないとはいえず、いわゆる信頼の原則はその適用上の要件を欠くと考えられるので、同被告は本件事故の発生につき過失を免れることはできないものというべきである。

三  (原告巌、同国司の傷害)

原告巌が本件事故により頸部挫傷、前胸部打撲症の傷害を受け、事故当日の昭和四六年一二月二五日から翌四七年二月二日まで山下病院に通院して治療を受けたことは原告巌と被告杉原間に争いがなく、成立に争いのない甲ロ第三、第四、第一一、第一二号証、証人国司愛子の証言、原告国司本人尋問の結果によれば、原告国司は、本件事故により、肝破裂、腰椎横突起骨折(第一、第二)の傷害を受け、事故当日の昭和四六年一二月二五日から同四八年二月二八日まで四三二日間岡山市伊福町にある岡山済生会総合病院に入院して治療を受け、同四八年三月一日から翌四九年一月三一日までの三三七日間(内治療実日数二〇日)同病院に通院して治療を受けたこと、同原告は、右病院に入院と同時に開腹、破裂肝部縫合の救急手術を施行され、昭和四七年一月一〇日右胸膜炎を併発し、同月二一日破裂肝部より出血を来たし肝右葉切除術を施行され、その後創部より滲出液(膿)の排出があつたが、同年一一月二七日腹腔内そうは術を施行されて軽快に向かつたこと、しかし、昭和四八年一月三〇日の時点では、肝の広範右葉切除を行なつているため肝の予備能力は極度に減退しており、また腸の癒着も強く、時に腹部膨満を来たす等の後遺障害が認められており、昭和四九年二月四日同病院医師により、原告国司の後遺障害は自動車損害賠償保障法施行令別表第七級第五号(胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの)に該当すると診断されたこと、そして同年七月八日の時点でも、同原告は、腹部膨満を来たし食欲が減退し疲労感を覚えるなどの症状があり、月一回の割合で有道内科に通院して治療を受けていること、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

四  (被告らの責任)

被告杉原が自己のために杉原車を運行の用に供していたものであることは被告杉原と各原告間に争いがない。

また、本件事故の発生につき被告杉原、同中台の両名に速度不適当、安全確認義務違反の過失があつたことは前記二で認定のとおりである。

被告杉原は、本件事故による損害賠償責任につき自動車損害賠償保障法三条ただし書による免責の抗弁を主張しているが、前記二認定のとおり同被告に杉原車の運行に関し注意を怠つた過失が認められる以上、右免責を受け得ないから、同被告の右抗弁は採用できない。

したがつて、被告杉原は、原告一夫、同巌が本件事故により蒙つた後記損害のうち物的損害については民法七〇九条に基づき、人的損害については自動車損害賠償保障法三条に基づきこれを賠償する責任があり、また、被告杉原、同中台は、共同不法行為者として各自、原告国司が本件事故により蒙つた後記損害のうち物的損害についてはいずれも民法七〇九条に基づき人的損害については被告杉原は自動車損害賠償保障法三条、被告中台は民法七〇九条に基づきこれを賠償する責任がある。

さらに原告公社、同共済組合に対しては、被告杉原は自動車損害賠償保障法三条、被告中台は民法七〇九条に基づき同原告らが蒙つた後記損害を賠償する責任がある。

五  (原告一夫の損害)

(一)  車の毀損による損害(修理代) 二二万一二二〇円

成立に争いのない甲イ第四号証、同第六号証の一、二によれば、原告一夫は、永井車の所有者であるところ、本件事故により同車を破損され、その修理費として合計二二万一二二〇円の損害を蒙つたことが認められ、これに反する証拠はない。

六  (原告巌の損害)

(一)  治療費 六八五〇円

原告巌は、本件事故により前記三のとおり傷害を受け、その治療をしたが、成立に争いのない甲イ第二号証の一、二によれば、同原告は右治療費として山下病院に六八五〇円を支払つたことが認められ、これに反する証拠はない。

(二)  病院へのタクシー代 一〇〇〇円

前掲甲イ第七号証によれば、原告巌は、本件事故当日同事故による傷害の治療のため事故現場から山下病院までタクシーを利用し、タクシー代として一〇〇〇円位を支払つたことが認められ、これに反する証拠はない。

(三)  休業損害 三万四五〇〇円

前掲甲イ第七号証の一部、成立に争いのない甲イ第三号証によれば、原告巌は、本件事故当時、日産プリンス岡山販売株式会社にセールスマンとして勤務し、月額賃金四万五〇〇〇円を得ていたが、本件事故による受傷のため、昭和四六年一二月二九日から翌四七年一月二〇日までの二三日間欠勤を余儀なくされ、その間賃金の支給を受けられなかつたこと、したがつて、同原告は、本件事故による休業損害として月額四万五〇〇〇円の二三日分、三万四五〇〇円の損害を蒙つたことが認められ、前掲甲イ第七号証中、右欠勤期間中の給与として九七八〇円貰つたとの原告巌の供述記載は、前掲甲イ第三号証の記載に照らしこれを採用せず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(四)  代車料 四万七〇〇〇円

前掲甲イ第三、第七号証によれば、原告巌は、本件事故当時、日産プリンス岡山販売株式会社にセールスマンとして勤務し、永井車を右業務用に使用していたが、同車が本件事故により破損して使用不能に陥つたため、昭和四七年二月中旬ころまで土井原商店から代替車両を借り受け、その代車使用料として同商店に四万七〇〇〇円を支払つたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(五)  慰藉料 一〇万円

前認定のような原告巌の傷害の部位・程度、通院期間、本件事故の態様その他諸般の事情を考慮すると、原告巌が本件事故により蒙つた精神的苦痛を慰藉するには金一〇万円をもつて相当と認める。

(六)  以上(一)ないし(五)の損害を合計すると、一八万九三五〇円となる。

七  (原告国司の損害)

(一)  車の滅失による損害 一五万円

原告国司と被告杉原との間では成立に争いがなく、同原告と被告中台との間では同原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲ロ第五号証、前掲乙イ第一号証および証人国司愛子の証言によれば、原告国司は国司車につき使用収益権を有していたところ、本件事故によりこれを修理不能の程度に破損されたこと、国司車は本件事故当時一五万円相当の時価を有していたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はなく、これによれば、原告国司は、本件事故により、国司車の滅失による損害として一五万円の損害を蒙つたことが認められる。

(二)  メガネの破損による損害 六五〇〇円

原告国司と被告杉原との間では成立に争いがなく、同原告と被告中台との間では同原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲ロ第六号証、証人国司愛子の証言および原告国司本人尋問の結果によれば、原告国司は、本件事故により着用していたメガネを破損されたため、新しくメガネを購入し、その代金として六五〇〇円を支出したことが認められ、これに反する証拠はなく、これによれば、右メガネ代金は本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

(三)  入院治療関係費 三五万二〇六〇円

前掲甲ロ第一二号証、原告国司と被告杉原との間では成立に争いがなく、同原告と被告中台との間では証人国司愛子の証言により真正に成立したものと認められる甲ロ第一〇号証(ただし、一部記入もれがあるものと認める。)を合わせれば、原告国司は、室料差額、診断書料等の入院治療関係費として岡山済生会総合病院に合計三五万二〇六〇円を支払つたことが認められ、これに反する証拠はない。

(四)  付添費 三七万二〇〇〇円

原告の本件事故による傷害の部位・程度、入院治療状況については前記三で認定のとおりであり、前掲甲ロ第一一号証、証人国司愛子の証言によれば、原告国司は、入院先の岡山済生会総合病院医師から重症起居不能のため昭和四六年一二月二五日から同四七年一二月三一日までの三七二日間付添看護を要すると診断されていること、原告国司の妻である国司愛子は、右期間継続して同原告の付添看護に当つたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はなく、右期間当時における近親者の付添費は一日一〇〇〇円程度とみるのが相当であるので、原告国司は、本件事故により付添費として一日一〇〇〇円の三七二日分、合計三七万二〇〇〇円の損害を蒙つたものと認められる。

(五)  入院雑費(栄養補給費を含む) 二一万六〇〇〇円

原告国司は、本件事故による傷害の治療のため岡山済生会総合病院に四三二日間入院したことは前記三で認定のとおりである。

ところで、原告国司は、重傷であり、特に医師から栄養食をとるようにとの指示があつたとして副食費として一日一〇〇〇円の入院期間四三〇日分、合計四三万円を請求しているが、本件全証拠によつても、原告国司が主張するような医師の指示があつたことを認めるに足りず、そのほか栄養補給費の相当性の判断に必要な治療上の効果、金額の相当性等についても立証がなされていない。したがつて、右副食費の請求を原告国司主張のとおり認めるわけにはいかないが、前記三で認定のような原告国司の傷害の部位・程度、入院治療状況に照らすときは、なにがしかの栄養補給費を本件事故による損害として認めるべきであると考える。

そこで、原告国司主張の副食費(栄養補給費)を入院雑費に含め、前記入院期間中一日五〇〇円の入院雑費を要したものと認めるのが相当であるので、同原告は、本件事故により入院雑費(栄養補給費を含む)として一日五〇〇円の四三二日分、合計二一万六〇〇〇円の損害を蒙つたものと認める。

(六)  交通費 一万九〇〇〇円

証人国司愛子の証言およびこれにより真正に成立したものと認められる甲ロ第七号証の一ないし二八によれば、原告国司の妻・愛子は、岡山済生会総合病院に寝泊りするなどして同原告の付添看護に当る一方、家庭には老令で身体の弱い夫の両親と当時七歳および三歳の幼い二児がいたため、時々家庭に帰宅し一家の主婦としてその世話を含む家事にも従事しなければならなかつたこと、そのため、愛子は、病院と自宅との往復を余儀なくされたが、右往復はバスの時間帯をはずれた夜間、迅速に行なう必要があつたためタクシーを利用したこと、そして右タクシー代として合計一万九〇〇〇円を出捐したことが認められ、これを覆すに足りる証拠はなく、同事実によれば、原告国司は、本件事故による損害として右交通費を被告らに請求できるものというべきである。

(七)  逸失利益 四九四万一六四二円

証人小神時夫の証言、これにより真正に成立したものと認められる甲ロ第一三号証、証人高畠正玄の証言およびこれにより原告国司の関係でも真正に成立したものと認められる丙第一号証の一ないし二一、同第二ないし第六号証、原告国司本人尋問の結果によれば、原告国司は、本件事故当時岡山電話局に勤務し事務職に従事していたが、本件事故による受傷のため、昭和四六年一二月二六日から同四八年九月二六日までの間欠勤を余儀なくされ、その後同年同月二七日から同四九年一月二六日までの間は一日当り四時間の勤務、同年同月二七日から同年二月二六日までの間は六時間の勤務を余儀なくされたこと、同原告は、同年同月二七日以降は通常勤務に復したが、当初しばらくは超勤や宿直を許されず、同年七月八日の時点ではその制限も外されていたこと、しかし、同原告は、日本電信電話公社の就業規則等に基づき、昭和四六年一二月二七日から同四七年六月二六日までの六か月間は病気休暇を与えられ一〇割の給与の支払を受け、同年同月二七日から同四八年六月二六日までの一年間は給与の八割相当額の支払を受け、それ以降復職するまで無給であつたが、昭和四八年九月二七日から同四九年二月二六日までの間は制限を受けた勤務時間につき病気休暇が与えられ一〇割の給与の支払を受けたこと、したがつて、同原告は、昭和四六年一二月二六日から同四九年一月二八日までの間、もし本件事故に遭遇せず通常の勤務に就いていれば総額三一四万八七七九円の給与(基本給、扶養手当、特別手当の合計額から社会保険料と所得税を控除したもの)の支給を受け得たところ、本件事故による受傷により欠勤したため、現実には二〇〇万五六七七円の給与の支給しか受けられず、差引一一四万三一〇二円の得べかりし利益を失つたこと、また、原告国司が右期間中通常に勤務していた場合は過去の実績からみて時間外手当として一四万四〇〇〇円程度の支給を受け得たであろうと推算されること、以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、原告国司は、本件事故により昭和四六年一二月二六日から同四九年一月二八日までの期間中における逸失利益(休業損害)として合計一二八万七一〇二円の損害を蒙つたものというべきである。

さらに、前記(七)冒頭に掲記の各証拠によれば、原告国司は、昭和四九年二月二八日以降ほぼ通常の勤務に復し、勤務先から給与の支給を受けるに至つたものの、前記欠勤のため基本給が若干減少しており、その状態は相当期間続くものと考えられること、さらに前記欠勤のため同原告の定期昇給額も一定の割合で減額され、また退職金の額も相当程度減収になるなど収入面においてかなりの不利益を受けること、以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。右事実に、原告国司が前記後遺障害により将来失職、転職等を余儀なくされ、収入減を来たすことが全く予想されないでもないことを考え合わせると、原告国司は、昭和四九年一月二九日以降においても逸失利益としてなおかなりの損害を蒙ることは明らかであるけれども、本件においては、右実損を把握するに必要な基礎事実について十分な立証がなく、いわゆる所得喪失説によつて損害額を確定することは困難である。

そこで、昭和四九年一月二九日以降の逸失利益については、原告国司が採用しているようないわゆる稼働能力喪失説によつて損害額を算定することも、喪失率の確定に難はあるが、やむをえないものと考える。

前記(七)冒頭に掲記の各証拠および前掲甲ロ第三、第四、第一一号証を総合すれば、原告国司は、昭和一一年一月二六日生まれで、本件事故当時健康な男子であつたこと、同原告が本件事故に遭遇していなければ、昭和四九年一月現在、日本電信電話公社から月額九万五五〇四円、年間一一四万六〇四八円の給与(特別手当を除く。)の支給を受け得たこと、原告国司は右公社の事務職に従事しているところ、肝の広範右葉切除を含む同原告の前記後遺障害(医師の診断では前記のとおり後遺障害等級第七級第五号該当)は、本人の努力で補つている面も少なくないとはいえ、事務職の労務の遂行についてさしあたりそれほど大きな影響はないこと、以上の事実が認められ、これを左右するに足りる証拠はない。同事実に照らすときは、原告国司は、やや大雑把ではあるが、昭和四九年一月二八日から二五年間控え目に見積つて平均約二〇パーセント程度の稼働能力を喪失したものとみるのを相当と思料する。したがつて、原告国司の右期間における逸失利益につき、年毎ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して昭和四九年一月二九日現在の時価を求めると、次の算式のとおり三六五万四五四〇円(一円未満切捨)となる。

一一四六〇四八×〇・二×一五・九四四一=三六五四五四〇

以上のとおり、原告国司は、本件事故により逸失利益として合計四九四万一六四二円の損害を蒙つたものと認めるのが相当である。

(八)  慰藉料 二五〇万円

前記認定のような原告国司の傷害および後遺障害の部位・程度、治療状況、入・通院期間、本件事故の態様のほか前記逸失利益の算定事情、その他諸般の事情をしんしやくすると、同原告が本件事故により蒙つた精神的苦痛を慰藉するには金二五〇万円をもつて相当と認める。

(九)  損害の填補

昭和四八年(ワ)第一九〇号事件における原告らの請求の原因(一〇)の事実は当事者間に争いがない。

前記(一)ないし(八)の損害合計は八五五万七二〇二円であるから、これから右損害填補額合計六四八万円を控除すると残額は二〇七万七二〇二円となる。

(一〇)  弁護士費用 二〇万円

原告国司が被告らから本件事故による全損害につき任意の賠償を受けられず、本件損害賠償請求訴訟を提起追行するため訴訟代理人弁護士の委任を余儀なくされたことは当裁判所に顕著な事実であり、同原告が被告らに対し本件事故と相当因果関係のある損害として請求できる弁護士費用は、本件訴訟の難易、審理の状況、認容額等に照らし、金二〇万円をもつて相当と認める。

(一一)  以上(九)の損害填補額控除後の損害と(一〇)の弁護士費用を合計すると、二二七万七二〇二円となる。

八  (原告公社の損害)

(一)  労務提供請求権を侵害されたことによる損害 一八一万七七二二円

成立に争いのない丙第一号証の一ないし二八、同第二ないし第六号証、証人高畠正玄の証言、原告国司本人尋問の結果によれば、昭和四九年(ワ)第六七六号事件における原告らの請求の原因2の後段の事実および同3の事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

本件事故の発生につき被告杉原、同中台の両名に過失があつたことは前記二で認定のとおりである。

右認定事実によれば、原告公社は、被告らの右共同不法行為により、国司等に対する雇傭契約に基づく労務提供請求権を侵害され、右合計一八一万七七二二円相当の損害を蒙つたものと認めるべきである。

(二)  弁護士費用 二〇万円

原告公社が右損害について賠償請求をするため弁護士に依頼して本件訴訟の提起を余儀なくされたことは当裁判所に顕著な事実であり、被告らの共同不法行為と相当因果関係のある損害として被告らに請求しうる弁護士費用は、本件訴訟の難易、認容額等に照らし、二〇万円をもつて相当と認める。

(三)  以上(一)、(二)の損害を合計すると、二〇一万七七二二円となる。

九  (原告共済組合の損害)

(一)  療養に要した費用等 三〇七万七八一四円

成立に争いのない丙第七、第八号証、同第九号証の一、二、証人高畠正玄の証言によれば、昭和四九年(ワ)第六七六号事件における原告らの請求の原因5の事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はなく、原告共済組合が国司等に対し右のような給付を行なつたのは被告らの前記共同不法行為に起因するものであることは明らかである。

したがつて原告共済組合は、公共企業体等共済組合法三〇条に基づき、右療養に要した費用二八三万五三七八円および傷病手当金二四万二四三六円の合計額三〇七万七八一四円の限度で、国司等が被告らに対して有する損害賠償請求権を取得した。

一〇  (結論)

よつて、原告一夫、同巌の被告杉原に対する本訴請求は、原告一夫が同被告に対し損害二二万一二二〇円、原告巌が同被告に対し損害合計一八万九三五〇円および右各金員に対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四八年四月八日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、

原告国司の被告らに対する本訴請求は、損害二二七万七二〇二円および内金二〇七万七二〇二円(弁護士費用を除いたもの)に対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな被告杉原については昭和四八年五月一九日から、同中台については同年同月二日から、内金二〇万円(弁護士費用)に対する本判決言渡しの日の翌日である昭和五一年二月一七日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、

原告公社、同共済組合の被告らに対する本訴請求は、すべて理由があるからこれを認容し、

訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 竹原俊一)

別紙(一) 国司等に対する給与支給明細表

〈省略〉

別紙(二)

〈省略〉

別紙(三)

〈省略〉

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